自閉症スペクトラムや発達障がい児と、不登校児、その子供達が興味を持っている分野の学生や専門家などをマッチングさせ、発達障がい児の可能性を伸ばすWEBサービスである『Branch』をやっている中里と申します。
弊社は、2017年3月にリブセンス共同創業者である桂大介さんより、少なくない額の寄付をしていただきました。 株式会社に寄付をするというのはあまり一般的ではありません。しかし桂さんの考えとして、現行の経済システムの限界と、それを突破するため、という思いがあってのことでした。
そこで、桂さんにインタビューをし、なぜBranchに少なくない額の寄付をしてくれたのかを詳しく聞いてみました。
■桂大介
高校在学中にシステム受託の個人事業主を始め、大学入学後リブセンスの立ち上げに参加。
その後はエンジニア、事業、マーケティング、人事などを幅広く歴任。リブセンスは史上最年少1部上場として話題を集める。
ー寄付をしたきっかけは?
「今日はなぜBranchを支援したいと思っていただいたのか、をお聞きしたいと思っています。まず、Branchを知っていただいたきっかけを教えていただけますか?」
「Branchをよく知ることになったきっかけは、スタートアップへの投資をしているの佐俣アンリさん(※1)と、飲みに行ったことです。
その会で、アンリさんが最近、どういうところを支援しているのか、という話をしたのですね。そこでBranchさんの話になったんです。
ちょうどその頃、Branchさんでビデオチャット始めて、その記事が拡散されていた頃だったんですよね。」
※1編集注:シード向け(立ち上がったばかりの会社)のベンチャーキャピタルである『ANRI』の佐俣アンリ氏。弊社への投資もしている。
「ああ、岡山県の男の子と東大生がビデオチャットで数学の話をするというブログですね。」
あれから約1年、50円東大生と発達障害の数学少年が再会しました。:うちの子流~発達障害と生きる
「そうですそうです。 ビデオチャットで発達障がいの子が、その分野に詳しい人とマッチングしたりしている、というのをアンリさんから聞いて、すごいなと思って興味を持ちました。
それで、アンリさんから紹介してもらったという流れですね。
もちろん、アンリさんも、なにか具体的に僕に支援してもらいたい、などと考えてたわけではなくて、まずは”とりあえず紹介しておくね”くらいの感じです。」
「なるほど。それで、チャットでつないでもらって、次の週ぐらいにお会いしてお話しさせて頂いたんですよね。その後、少なくない額の寄付を決めていただきました。」
ー今の経済システムは万能じゃない
「そういうきっかけで支援して頂いているわけなんですが、『なぜ出資ではなく、寄付という形だったのか』という点について、支援した理由があればお聞きしたいです。」
「そうですね。まず、僕は出資や投資でカバーできない範囲って大きいな、と思っているんですね。
投資で社会をよくしようとすると、どうしても現行の経済システムとか評価システムの限界にぶち当たる。その中でやるとリターンとか、引いてはスケーラビリティとか求めちゃう(=事業が拡大するかどうか)わけで、それを捨てられるなら最初から寄付でいいじゃん、っていう話かなと。
資本主義によって世の中がよくなっている点はたくさんあります。生活が便利になったり、お金を稼いでいる企業や個人が税金を納めることで社会福祉に回って所得の再分配が起きたり?など。
一方で、格差の拡大もあるし、株式会社が全然向かっていかない領域みたいなものもある。たとえばベンチャー企業が生まれてくる分野って異様に偏ったりするじゃないですか。」
「そうですね、たとえば、マーケットが大きいところに偏りますね。」
「ビジネスでやる株式会社だと、時期や市場によって解決される分野が偏ってしまうんですね。株式会社っていうのはものすごく便利な乗り物ですが、当然それだけで全部うまくいくわけではない。
そう考えると、投資と寄付は、バランスよくやらないといけない、と思うんです。今の市場経済の外側で、もう一つの、オルタナティブ(=代替、既存のものに替わる新しいもの)なお金の流れを作っていかないといけない。」
「ビジネス上の投資だけだと偏りが出てしまうので、社会全体の問題をバランスよく解決するには、ビジネスでやっていないところへもお金をちゃんと流すべき、ということですね。
具体的には、どういうところに寄付をしているんですか?」
「寄付先は本当に普通ですよ。ユニセフとか国境なき医師団とかヒューマン・ライツ・ウォッチとか、そういうところですよね。
まあ、でもやっぱり、寄付先をどこにするかってちょっと迷うんですよね。」
「なるほど、どこに寄付するかは難しそうですね。NPOだけでもいっぱいありますもんね。」
「そういう背景があった中で、Branchさんのお話聞いたときに、あ、ここはお手伝いできればいいなと思ったんです。寄付先は株式会社でもいいな、と。
NPOが莫大な売上をあげてもいいし、株式会社に寄付をしてもいい。もっとそれぞれの乗り物が多様な可能性に開かれていくべきだし、そうした扱いをしていきたいんですよね。
重要なのは法人形態ではなく事業なんだとその時に気づきました。」
「マーケットでお金が回ってるところ以外の、普通であればNPOがやっていくような場所にもっとお金を回したいという事ですね。」
「そうそう。そういう所にお金を逃していくことはもっとやんないといけないなと思ってます。」
ー情熱は邪魔してはいけない
「あとはBranchさんを応援したいと思った理由としては、個人的な思い出がありまして。
CodeIQという、プログラミングのコードを書いてスキルレベルを判断するサイトがあるのですが、そこでうちの会社で問題を出した時の話です。
問題は『財布の中にx円入ってるとします。y円の支払いをする時に、最終的に財布の中の小銭の数を最小となるような支払方法を求めるプログラムを書いてください』というものだったのですが、参加して解いた人数が10人いたんですね。
参加者はほとんど社会人で、正解してるのが4人とかだったのですが、その中で圧倒的に良いコードを書いてきたのが高校生だったんです。」
「この高校生が、数学的発想からしてすごかったんです。発想が違うというか。
で、すごく興味を持ったので、実際、呼んできてもらったのですね。もちろん、まだ高校生なので、採用目的などでもなく、純粋に話したくて。
すると、高校生なので、お父さんと一緒に来られたんです。
話してみると、その子本人はすごいおとなしい子でした。もう、朴訥(ぼくとつ)な少年って感じで、闊達(かったつ)にしゃべるのではなく、聞かれたらボソボソと答えるだけ、という感じです。
プログラミングをやりはじめたきっかけは、たまたまDSのソフトかなんかからハマってかららしいのですね。もちろん独学で。それを見たお父さんがプログラミングの本を買ってあげたらしいんですけど、みるみる勉強していき、たまたたまCodeIQとかを知って答えるようになったらしいんです。
その時、お父さんから相談されたのが、母親が『家にこもっていないでもっと外で友だちと遊びなさいみたい』みたいなことを言うらしいんです。
もう、この高校生の子は、大人を蹴散らしてるレベルなわけですよね。なので僕ともう一人のエンジニアで「いや、お父さん。この子は逸材ですから。ひたすらプログラムやらせてたほうがいいです」みたいなことを言ったんですけど。
そこで、やっぱり情熱というものはすごいし、それを邪魔してはいけないな、と思ったんです。
もちろん、「外で遊びなさい」といっているお母さんも、詳しくないからそういっているだけで、大人のプログラマーたちにここまで言われたら納得するかもしれない。だけど、普通はそんなのわからないわけですよね。
単純に子どもが部屋にこもってダラダラ意味のないことやってるのか、プログラミングをしていて、そのレベルが大人を蹴散らすレベルなのか、そんなことは判断つかないわけです。
そういう意味でも、これをうまく、その子に合った教育とかあればいいなぁ、と。それがBranchさんと通じると思ったんですよね。
ああいう子って当然他にもいるんだろうし。
そんなすごい子が、普通に学校の勉強と、外で他の子と遊んで、普通になっていくっていうのは、やっぱりつらいよね、という気持ちはありました。」
「そうですね。僕らが関わっている子たちも、やっぱり興味の範囲がすごく狭い子が多くて。その興味が通じ合うような友達がいないと、孤独になりがちなんですよね。
たぶんその子も、もしそんなプログラミングのレベルが高いくらい好きなんだとしたら、たぶん会話が合う友だちはなかなかいないですよね・・・。」
「そう。いないと思うんですよね。しかも、たしかコンピューター系の部活に入っているとかでもなかったんですよ。」
ー公教育の隙間にある教育
「ありがとうございます。次に、たくさんNPOなどがある中で、Branchをなぜ選んで頂けたのかな、と。」
「事業内容はめちゃくちゃ良いと思ってるんですよね。それが大前提ではあるんですが、僕はそんなに天才を発掘しようみたいな感覚はないんです。
学校教育も、80%の人には良いんだけど、20%の人には合わないみたいなところあるじゃないですか。だから先ほどの経済の中での寄付の話と同じように、教育でもオルタナティブを作んないといけないと思っているんです。教育でいえば、現在の教育制度の隙間を埋める新しいものですよね。Branchは、そういう意味ですごく良いなと思いました。
たとえばアルトスクールなどもその流れの一つですよね。」
「元Googleメンバーが創った新しい教育方針の学校ですよね。いわゆるアダプティブ・ラーニング(=個々の生徒にあわせて学習内容を提供すること、その仕組み)をやってるんですよね。」
「そうです。ただ、学校教育のオルタナティブを作らないといけないといっても、今の学習塾の流れは、やっぱり違うと思っているんです。
学習塾や、受験塾とかって、結局メインストリームの受験競争を加速する形が多いじゃないですか。そうではない形のサブストリームを作っていくって事はすごく大事だと思うんです。
だから、僕は私塾や社会人の塾とかも好きですし、そういうものがもっと増えていくといいな、という気持ちがあります。」
「僕らも、今の延長でホームスクーリングとか、そっちの拡大とかのほうに行ければなというのがあります。要は天才発掘よりも、さっきおっしゃってた学校に行けないところの部分に関心があるんです。」
「そうですよね。まあ天才発掘って、なんかバズりやすいですし、メディア受けもいいですし、全然それはそれでいいと思ってはいます。結果的にそれはすごい社会的にも良いことでしょうし。
ただ、どちらかというと、僕は、個々の子どもというよりも、既存のマジョリティの学校制度に対して何をするかというのがあります。」
「思えば僕自身も小学校にそんなに合わなかったんだと思うんです。僕は中学受験志望だったのですが、小学校1クラス30人の中で受験する人って2,3人だったんで、基本的に小学校の授業とは会わなくなるんですよね。
たとえばアダプティブ・ラーニングという手法は、最終的に当然流行っていくでしょうし、学校でも取り入れられていくと思うのですが、それとは別の問題として、学校の限界みたいなものがあるような気がするんですよね。
それは公教育の限界なのかもしれないですし、単純にああいうでかいシステムの限界なのかもしれないし。個人的には後者が近いかなと思っていますが。
そんな感じで、基本的に普通の会社やサービスはマジョリティを相手にすると思うんですが、それだけだと限界があるので、マイノリティが必要になる、と思っていて、それがBranchを選んだ理由ですね。
まあ、そんな感じの理由がいくつかあって、それが組み合わさって寄付させていただいた、という感じですね。」
「なるほど。他の理由はたとえばどういうのがありますか?」
「障がいの観点でいうと、ダイバーシティ富士登山って、障がい者と富士山登るイベントに参加したり、ダイアログ・イン・ザ・ダーク(※2)に参加したことなどもあったので、そのあたりで感じるものがあったりとか。」
「ああ、僕もダイアログ・イン・ザ・ダークは4回ほど行きました。」
※2編集注:完全に光を遮断した空間の中へ何人かとグループを組んで入り、視覚障がい者のアテンドのもと、暗闇の中で様々なアクティビティを体験するイベント。ドイツの哲学博士によって発案され世界中で行われており、800万人を越える人がすでに体験している。
「盲目の方で、ものすごい耳が発達してて、もう位置とか向きとかまで、すごいピンポイントで分かるっていう。
あれはすごいカルチャーショックでしたね。本当に、よく障がいは個性だとか、色々言うけど、本当になんか卓越した能力が、障がいがあることによって鍛えられるってことがあるんだ、いうことを肌で実感したんですよね。」
ーこんなすごい子どもがいるわけがないという大人の前提を壊したい
「なるほど、ありがとうございます。Branchっていうサービスに、今後期待していくことっていうのがあればお聞きしたいです。」
「子どもはこうだという規定しているものがあると思うんですよね。そういうのを取っ払って欲しいですね。
例えば、岡山県の数学の少年やCodeIQの高校生ももそうですけど、そんなすごい子どもがいるわけない、と、みんな前提があると思うんですよ。暗黙的に思ってる。
枠があるといってもいいかもしれません。学校教育ってこういうものだよね。子どもへの教育ってこういうものだよね。子どもってこういうものだよね、というふうに思ってしまう。
だけど、実際はそれをぶち抜けたものはあるわけです。ただ、それって実例見るまではなかなか想像ができません。
だから、子どもとか教育とかっていうものにこれだけ幅があるという所を見たいですね。」
「学校教育は良く出来てるけど、そこから漏れてるものにもすごく価値があるっていうことです。
これは勝手な個人の思いですけども、個々のいろいろな事例を積み上げていって、子どもとか教育は、ここまでのことが出来るんだみたいなことが見せられたらいいですよね。社会に対して。そういうのを見せられたら面白いなって思っています。」
ー 一過性のブームに終わらない支援を続けたい
「分かりました。ありがとうございます。では最後になるのですが、支援という事自体についてお聞きしたいです。
支援について、もっと自分もやっていきたいなとか、もしくは、他の起業家とかも含めて、こういう意義ある支援は増やしたほうがいいとかありますか?」
「うん。いやあ、これ難しいですよね。
起業家が寄付しないと恥ずかしいみたいになるのは確かに一つの手段だとは思います。それによって総額は絶対増えていくでしょうし、それによって助かってる人がいると思うので、それはまあ悪いことではないですよね。
一方で、それが変な勢いを持ち始めること自体は怖いなと思うんですよね。たとえば、アイスバケツチャレンジ(※3)みたいなものとか。」
※3編集注:難病ALSを広めるためにアメリカからスタートした。SNS上で氷の入ったバケツを頭からかぶりそれを動画に撮り、他にやってくれそうな人を指定するというもの。
「いい話だから続けていこうってなるうちに、変なPRになってしまうというのが嫌ということでしょうか?」
「そういう危険性ってすごくあると思うんですよね。
あのやり方は少なくとも続けていけない。どうにも持続しない。あれを無理に拡大再生産していった先って、なんかとんでもない、何か本体を置き去りにした部分が肥大して出来上がるだけだと思うんですよね。
昔のホワイトバンドとかもそうだったと思うんですけど、やっぱり消費されちゃうんですよね。ブームが去ってあとに何も残らないというのが一番怖いなって思っています。」
「少し咀嚼(そしゃく)すると、寄付などの支援を続けるのはagreeで、みんなやるべきはagreeだけど、それが一過性のブームになるようなやり方になってしまうと良くない、ってことですよね。
文化になればいいんだけど、一過性のブームになるようなやり方には乗っかれないから、やる事自体はagreeだけどやり方考えないと、ということでしょうか。」
「まあ、やりたい人がやればいいと思いますよ。それを変なムーブメントで巻き込もうとするから、結局大衆消費の一過性に吸収されちゃうんだと思います。
最終的に絶対額はもっと増やした方がいいとは思いますが、そこを広範囲とか短期間で狙うとうまくいかないですよね。今ってなんか、色んなものがすぐブームになるじゃないですか。」
「ああ、はい。」
「すぐ消えちゃうじゃないですか。今。何か流行ってもすぐ忘れられてしまう。」
「そうですよね。支援等に関しては、一過性のブームでは良くないですよね。」
「だから僕も別に人に聞かれたら、別に隠すことなく言いますし、こういうところに答えるのは全然いいんですけど、「寄付かっこいい」みたいなことは言いたくない。それをやり続けた先で、そういう行為がメインストリームの評価システムに乗っかって結果消費されて死んじゃう、みたいな怖さは避けたいんですよね。
なので、そういったものについては何かのPRのためでもなく、ブーム的に終わるものでもなく、なんとか続く形を模索していきたいなと思っています。」
「なるほど。分かりました。すごく面白かったです。ありがとうございます!!」
「ありがとうございました。」
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じっくりインタビューさせて頂き、桂さんの思いが深く伝わりました。
考えていた以上にBranchで先々やっていきたいと思っている事とリンクしており、同じような事を考えていらっしゃる方もいるのだなぁと感じました。
多額の寄付ができるほど自分は資産家ではないですが、こういった思いは連鎖していければなと思います。
■インタビュアー
・Branchを運営している㈱WOODY代表取締役中里祐次
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Branchでは、今後も不登校、自閉症スペクトラムや発達障がいをお抱えのお子さまの才能を伸ばしていきたいと一同思っております。