Branchには、「読めるけれど書けない」「読むのも書くのも難しい」「書き方が独特」なタイプのお子さんがいらっしゃいます。
読み書き障がい(ディスレクシア)(※1)、書字障がい(ディスグラフィア)(※2)と診断されていたり、診断はつかないけれど、同様の困難さを感じているお子さんも少なくありません。
今回は、オンラインコミュニティの保護者チャンネルで交わされたやり取りをもとに、「読み書きの苦手さ」の事例や保護者の疑問と、それに対する専門家の視点、日常生活での工夫や学校生活で必要なサポートをご紹介します。
(※1)知的に問題はないものの、読み書きの能力に著しい困難を持つ症状。https://www.npo-edge.jp/educate/
(※2)「書く」ことの困難さのことで、その背景にディスレクシアや、後述の発達性協調運動障がい(DCD)が隠れていることもある。https://edupedia.jp/article/58fc80ec735efc00008e3be0
「書く」が苦手な小学校3年生の息子。練習を強要したくないけれど、このままでいいの?(Aさんの疑問)
Aさん
”小学校3年生の息子は、読めるけれど書くのが苦手なのですが、ディスレクシアやディスグラフィアの診断は下りません。
正確なことを知りたいけれど、そもそも人の脳や身体は不思議で、それが多様性と自分の中で折り合いをつけています。
息子は、「ペンで書くよりお風呂の曇った鏡に書いたり、シェービングフォームを伸ばした上に好きな字を書くほうが楽」と言っています。
読めるけれど書くのが極端に苦手なので、本人が調べたいことは音声入力や代筆で生活しています。
書くときは、私が見本を書き、それを見ながらです。
クリスマスには、「自分の字でサンタさんに手紙を書く!」と頑張っていましたが、特に小さい「ょ」はうまく書けず、何度も机を叩きながらでした。
それでも、2年前に比べたら書こうと思う意欲や、できないことに対しての心のモヤモヤと折り合いをつけるのはうまくなってきたのですが。
この様子をみると、書字にこだわる必要はないけれど、本人の心の奥底では、「本当は書けるようになりたいのでは?」と考えてしまいます。
かと言って練習させる気持ちにはならなくて。書きたい時に、こんなふうに書いたり、泡や水で楽しく書く経験を積むくらいでいいのでしょうか?”
興味を持ったときが始めどき。「読む」「書く」が楽しくなる、家庭で取り組めそうな工夫
Aさんの疑問を受けて、Branchメンターでもある作業療法士・しおんさんが答えてくださいました。
作業療法士・しおんさん
”「読み書き障がい」といっても、それぞれのお子さんにより背景は様々で、画一的な方法という訳にはいかないですよね。 認知知能検査の情報があると、得意な部分をきっかけに介入しやすいこともあります。
私が対応方法として意識していたことをまとめると、以下の3つになると思います。
①環境調整、補助ツールの使用
- タブレット端末
- リーディングトラッカー
- 蛍光ペンでの目印
- 文節ごとの区切り線
- 大きめの枠や、補助線ありのマス目のある紙の使用 (縁が立体的マス目のワーク用紙などもあります)
など
②他の感覚や事象に関連づけて文字を覚える
- 色や図形と文字をセットにする
- 漢字を分解して語呂合わせ
- 体全体を使って文字を書く体験
- 抵抗感やザラザラなどの感覚が入りやすい設定で文字を書く
など
③好きな遊びを通した視空間認知能力の向上
- ゲーム
- ブロック
- パズル
- 折り紙
- 粘土
- アイロンビーズ
など
個人的には
・読める文字を増やすことにより検索や変換ができる。
・氏名など生活に必要な最低限の文字が書ける。
が重要かなと思っています。
それには、楽しい・出来た・面白いといった感覚を味わえるような心理的なサポートが大事ですよね。
私は、その子の強みを活かせる場を設定したり、頑張っている姿勢を肯定的に声をかけるのを意識しています。
Aさんのように、曇った鏡やシェービングフォームなど、興味や感覚(触覚・固有覚)を刺激する遊び+学びをご家庭でされるのは素敵なことだと思います!そして、「この方が楽だなー」と自分で言葉にできることがすごくいいなと感じました!自分を理解して合う方法をみつけていくことは、生きる力に繋がると思います。
クリスマスのエピソードを拝見し、書きたいという気持ちと、思うようにいかないモヤモヤと闘いながらも最後までやりきったこと、かっこいいと思いました。
文字への興味や意欲が高まっているのであれば、取り組みどきかもしれません。
ただ、私は必ずしも文字を順番に網羅して書けるようにしていく必要はないと考えてます。生活の中での「やりたい!」→「できた!」から、自然と興味が広がってゆき、その中で書ける文字が増えていくというプロセスの方が、学びやすいお子さんもいると思います。
「書きたい文字を書く」が達成できるよう、段階の設定や環境の工夫をすると良いでしょう。
例えば、
・なぞり字→模写 (トレーシングペーパーも楽しいです!)
・紙やすりを下敷きにする(書いている感覚のフィードバックがされやすい)
・視覚的なガイド (文字の大小に合わせた○印の枠、点結びのように始点終点を書く、小さなシールを貼ってその周りを線でくるっと回る)
・持ちやすい筆記具や補助具の使用
などです。”
学校でiPadを使用している例も。ひらがなより、直線の多い漢字や外国語を早く習得することもある
Bさん
”息子も、ディスグラフィアのLD(※3)です。
小さいときから、好きな迷路も鉛筆を持たせるとすごくはみ出すので、「あれ?」とは思っておりましたが、絵を描くのも鉛筆を持つのも好きなので、しばらく気が付きませんでした。
読むのは問題なさそうで、本も好きです。字は書けないのですがスマホやiPadの入力はできるので文字でのコミュニケーションもとれます。いまのところ積極的に直そうとは思っていないのですが、専門の先生にみていただいたところ、でんぐり返しや片足立ちなど運動全般の練習から必要と告げられて、めげております。
学校には相談し、iPad持参でOKをもらいました。連絡帳や作文はiPad対応しています(それでもやらない時も多いですが汗!)。
私もAさんとまったく同じように思っており、書くことが「いや」になるような矯正はしないでおこうと思っています。
息子も小学校3年生ですが、文字を書くことに対して同じ雰囲気です。でもサンタさんのお手紙と同じく、どうしても何か伝えたいときは書いているので、そっと見守って、「間違えているよ」等々もいわないようにしています。たまに書いてくれると嬉しいです。
ひらがなもなんとか読める程度です(先生、よくぞ丸を付けてくれた!と思いますが)。”
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(※3)Learning Disability(学習障がい)。最近はLearning Diversity(学び方の多様性)と捉える専門家もいる。
Cさん
”うちの小学校2年生の息子と似たような字なんで、ビックリしました。LD検査をしましたが、違うと言われました。ホントに図や記号のような漢字になります。書き順なんて、オリジナルです!
書きたい気持ちは大切にしたいですね。
うちの子は日本語より韓国語やアラビア語に興味があるようです。たまに漢字ノートに真似して書いてます(笑)。
独特な絵、ゲームの場面のような絵をよく描いてます。”
適切な支援を探るには、読み書きの苦手さへの理解が大切
Dさん
”小学校3年生の息子も音→文字への変換に時間がかかります。そして拗音促音(ようおんそくおん)(※4)が苦手です。書くときは今でも、あいうえお表を見ながらです。
それでも強制して書かせることは一切せず、週1の適応教室で毎日の目的を書くときのみ、一対一で先生についてもらい頑張っているようです。
書いた字をみると泣けます。大丈夫だと思っているし、彼のペースでいいと思っているのだけど、やっぱり自分は心配してしまっているのだと思います。
みなさんのお話を聞くと、学校において読み書きが苦手なことは、子どもにとってとても大変なのだとあらためて思いました。 親にも先生にも理解が拡がるといいですね。”
(※4)「きょ」「しゅ」「きゃ」を拗音。小さな「っ」「ッ」で表される音を促音という。
学校生活での苦手意識を最小限にする、「書く」にこだわらない「読み書きサポート」は?
学び方が「書く」だけではなく、「聴く」「動画をみる」「体験する」など多様になってきている今。
もしかしたら、「書く」にこだわらなくてもいいのかもしれません。
Branch代表中里と交流のある児童精神科医・X先生からは、こんなアドバイスもありました。
X先生
”書字障がいのようにみえるけど、LDでないと言われたという場合は、運動の組み合わせや調整が必要な動作が苦手な特性があるかもしれませんね(厳密にいうと、さらに個別に考える必要があります)。
そういったお子さんに対してつける発達性協調運動障がい(DCD)という診断名があります。
大きく分けて、なわとびなどの粗大運動と、はさみや鉛筆などの巧緻運動に分けられます。
運動の苦手さは「不器用」「運動音痴」で片づけられがちですが、 体育やスポーツに限りません。
日常生活で困りそうな場面は主に
・描画や書字
・衣類の着脱(ボタン、ジッパー、ホック)
・靴紐の結び
・箸の使用など食事
・文房具(ハサミ、コンパス、定規)
・鍵盤やリコーダーなど楽器操作
・バランスや姿勢制御
・ボールのキャッチなど手と目の協応を必要とする遊び
・指先での操作を行うゲーム
などです。
これらの苦手意識だけでも、学校生活での失敗体験を増やし、自尊心を低下させることにつながることが多いです。特定の科目が嫌いになったり(理解はできるにもかかわらず嫌いになるのはもったいない…)、運動嫌いになったり、将来の肥満や生活習慣病のリスクを上げたり、その影響は非常に大きいとされています。
DCDは全体の5-6%程度いるといわれている(ADHD約5%、自閉症2%と考えると少なくない)のですが、日本では教育の領域でも、医療の領域でも、ASD、 ADHDなどと比べると軽視されています。
スキーやスノボの手袋をはめながらペンを持っているような感覚かもしれません。
保護者様が話されているように、書かない方法や、書き順なんてまあいいやというような形で配慮を受けられるといいと思います。
学校側のサポートとしては
・マスを大きくする
・補助線を引いてもらう
・試験時間を長くしてもらう
・スマホタブレットで打ち込む
・音声の録画、板書などは写真でOKとする
・タイピングを習得(ゲームなどを通じて)する
などが挙げられます。本人と相談しながら方法を決めていくことが大切です。
好きなキャラクターや駅の名前など、自然に練習できるとよいですが、 基本的には書くことを減らす方針が合理的と思います。
あるテレビ番組で、運動神経悪い芸人という人気の企画があります。
彼らは不器用さを抱えながら、その分おしゃべりが上手だったり、苦手さをうまく笑いに変えることができていますよね。 これを機にもっと注目されたら良いのにと思っています。”
読み書きの苦手さ・不器用さ等のサポートアイテム
最後に、お子さんの補助に役立てられるアイテムを2つご紹介します。
参考図書|発達障害の子のための「すごい道具」: 使ってみたら、「できる」が増えた
発達障害のある子の苦手を補助する道具がまとめられた本です。作業療法士のしおんさんや児童精神科医のX先生がお伝えくださった、読み書きをサポートする工夫に使えそうな道具も紹介されています。
発達障害の子のための「すごい道具」: 使ってみたら、「できる」が増えた (Oyakoムック)
「読み書きの苦手さ」を学校に説明するテンプレート
発達特性を他者にわかりやすく説明するのは難しい。そんなお悩みに答えてくれるテンプレートです。ツイッターアカウント「うさぎ1号」さんが作成くださったものです。
お子さんに合わせて、内容を適宜改変して利用できます。ダウンロード
子どもだけでなく、保護者も学び合う、Branchオンラインフリースクール
保護者と専門家メンターが、リアルタイムでやり取りできるのは、Branchオンラインフリースクールならでは。
好きなことを楽しみながら、独自の「読み方・書き方」を見つける過程は、子どもが見ている世界を知るチャンスです。
苦手意識が、好奇心や意欲に変わることもあるかもしれません。
発達障害や不登校の子の「友だちができる。安心できる居場所」とは?
Branchでも1つの解決策として、不登校・発達障害があるお子さま向けの「学校外で友だちができる」オンラインフリースクールを運営していて、以下のような特徴があります。
- 同じように「読み書きが苦手」なお子さんや、家族以外の人との関わりが減ってしまった不登校のお子さま達が自分の「好きなこと」をきっかけに安心できる居場所や、友達ができるようなサービス。
- NHKや日テレなど多くのメディアにも紹介され、本田秀夫先生との対談や、厚生労働省のイベントの登壇実績もあり、サービス継続率は約95%以上。
- 小学校低学年のお子さまはもちろん、どんな子でも楽しく参加できるようにスタッフがお子さま一人ひとりに寄り添ったサポートを徹底。
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